〔特集〕EU憲法条約の国民投票について(1)
現在、欧州メディアには、今年の5月29日に予定されているフランスの国民投票(レフェレンダム)に関して、きわめて悲観的な論調が支配している。他の加盟国への模範となろうとして、あえて国民投票の道を選んだフランスであるが、この決断は裏目に出るのであろうか。目が離せない情勢にある。
この辺りの動向については、ニュース欄に譲るとして、この特集では、一歩引いた視点から分析を加えたい。そもそも、なぜ国民投票が必要なのか。必要なのはどの国か。そして、もし、国民投票が否決された場合には、何が起こるのか。この特集では、これらの点について詳しい検証を行いたい。
まず、問題状況を整理することから始めよう。現在起こっている問題の発端は、すべての加盟国に、憲法上の規定にのっとった批准を要求する、欧州憲法条約の447条1項1文である。つまり、問題を整理するならば、憲法条約の発効(2006年11月1日が予定されている)には、次の要件が必要になる:
- すべての締約国(=EU加盟国)によって批准されること
- その批准が、各国の憲法上の要件をみたしていること
これが、現在、きわめて大きなハードルとなっているのである。
そもそも、国際法の常識からすると、条約の発効にすべての締約国の批准を求めるのは、珍しいことなのである。というのも、もしそんなことをしていたら、ほとんどの条約は発効しないからである。例えば、国際刑事裁判所条約にせよ、京都議定書にせよ、アメリカの批准なしにきちんと発効しているのは、そもそもすべての締約国の批准を求めていないからである。
しかし、欧州統合にかかわる条約は、加盟国の国のあり方を根本的に規定するものであり、これまでつねに、すべての加盟国の批准を要求していた。
これまで、欧州統合における大きな条約改正は、単一欧州議定書、マーストリヒト条約、アムステルダム条約、ニース条約の4回があった。1950年代の、欧州石炭鉄鋼共同体・欧州経済共同体・欧州原子力共同体の3共同体の設立条約を含めれば、6回あったことになる(欧州経済共同体条約と欧州原子力共同体条約はまとめて1回)。そして、これらは、すべて、全加盟国によって批准されてきた。だとすれば、なぜ今回はこんなに大変なのか、という疑問に、まずは答えなければならないであろう。
まず、加盟国の数が違う。昨年5月1日に、EUには新たに10か国が加わった。そして、現在の加盟国は25か国もあるのである。そして、25か国のうち、1か国でもポシャれば、憲法条約は発効しないのである。1950年代の3条約は6か国、マーストリヒトは12か国、アムステルダムとニースは15か国であったことを考えれば、これは重大な変化である。
しかし、今回の場合、実はこの点は大きな問題ではない。なぜなら、新規加盟した10か国というのは、主として、EUにより莫大な経済的利益その他の利益をこうむっている東ヨーロッパの国々であり、これらの国々にとっては、欧州統合の進展は、政府・国民ともに諸手を挙げて歓迎するものであるからである。平たくいえば、お金をもらいつづける契約にサインをするようなもので、喜んでサインしますという国ばかりなのである。
問題なのは、金を払い続けるほう、つまり西ヨーロッパ諸国である。しかし、これらの諸国は、同時に、これまでソツなく条約改正をこなしてきた国々でもある。それでは、なぜ、今回は、これらの国々で問題となっているのであろうか。この点を考える一つの鍵は、447条1項1文にある。
次回では、この問題について見ていきたい。







