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2006年07月05日 - 特集

〔緊急特集〕北朝鮮のミサイル発射――国際連合法にもとづく解説(1)

北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射した。来るべきときが来たというべきだろうが、これにより、国際社会が北朝鮮に対して、伝家の宝刀である軍事的制裁を加える可能性は高まったといえる。

本稿では、このようなパースペクティヴのもと、今回の北朝鮮の行動が、国際連合においていかなる法的意味を持つのかという点について、分かりやすく解説してみよう。

すでに、内閣官房長官は:

今回、我が国を含む関係各国による事前の警告にもかかわらず発射を強行したことは、我が国の安全保障や国際社会の平和と安定、さらには大量破壊兵器の不拡散という観点から重大な問題であり、船舶・航空機の航行の安全に関する国際法上問題であると同時に、日朝平壌宣言にあるミサイル発射モラトリアムにも反する疑いが強い。また、六者会合の共同声明とも相容れない。(平成18年7月5日内閣官房長官声明

との声明を発表しており、この点まさにその通りであろうが、本稿ではこのような観点からではなく、とくに国際連合法から見る場合にどうなるか、という点に絞って考察したい。

まず、全体的なパースペクティヴを示すと、今回の北朝鮮の行動に関して、国連法的に問題となるのは、次の3点である。

  1. 北朝鮮の行動は国連の武力禁止原則に違反した行為であるか?
  2. 国連安全保障理事会には何ができるか?
  3. 自衛権の発動は可能か?

本稿では、全体3回に分けて、テーマごとに一つずつ解説していこう。

北朝鮮の行動は武力禁止原則違反か

国連憲章において最も重要な条文は、武力禁止原則を定めた国際連合憲章2条4項であるといわれているが、この条文は、次のように規定している:

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

ちなみに、この規範が国際慣習法であるかどうかについては、議論のあるところである。しかし、いずれにしても、北朝鮮は、1991年9月17日の加盟以来、国際連合の加盟国であるわけであるから、北朝鮮に本条が適用され、北朝鮮がこの条文に拘束されることに異論はない。

だとすると、今回の北朝鮮の行為が、「武力の行使」ないし「武力による威嚇」に該当するか、という点が、法的にはもっとも重要な論点となる。

「武力の行使」か?

まず、「武力の行使」についてであるが、これには、直接的な武力の行使と、間接的な武力の行使の二種類が存在すると考えられている。直接的な武力行使とは、A国がB国に対して直接に武力を行使する場合であり、間接的な武力行使とは、A国がテロリスト集団を援助してB国を攻めさせるような場合である。

ここで問題となっているのは当然直接的な武力行使である。直接的な武力行使には、A国軍がB国の領域に公然と侵入することだけではなく、A国軍がB国領域内に越境射撃することも、もちろん含まれる。これは余りにも当然のことなので、この点を特に明確に規定した国際法規範はさしあたり見当たらないが、国連総会決議3314(1974年)の3条b項が

ある国の武力による他の国の領域に対する砲撃、又は、他の国の領域に対するある国によるあらゆる武器の使用(Bombardment by the armed forces of a State against the territory of another State or the use of any weapons by a State against the territory of another State)

を「侵略行為(act of aggression)」であると規定していることに鑑みれば、これがより広い概念である「武力の行使」に該当することは当然の結論となる。

それでは、今回の北朝鮮の行為は、日本の領域内に対する越境射撃といえるか。結論的には、不明である。

領域というのは、領土・領海・領空により構成される。今回着弾したのは、日本領土から数百キロの地点であるとされているので、国連海洋法条約と我が国の法律によって12海里とされている我が国の領海に着弾したわけではない。したがって、日本の領域内に対する越境射撃とはいえないように見える。

しかしながら、もし日本領土ないし領海への攻撃を意図しており、たまたま失敗により我が国の領土・領海に着弾しなかっただけである場合には、話は別である。

要するに、この点、北朝鮮側がいかなる意図をもってミサイルを発射したかによるといえよう。

「武力による威嚇」か?

次に、「武力による威嚇」に該るかどうかを検討して見よう。藤田久一『国連法』270~271頁によれば:

「武力による威嚇」という言葉は、連盟規約にも不戦条約にもなく、憲章2条4項に初めて用いられたものであるが、その意味については、「武力の行使」のそれと較べて、あまり検討されることがなかった。国家実行上も、武力による威嚇だけを理由として、2条4項違反が主張されたことはあまりない。

とされている。したがって、余り先例がないわけであるが、そのことは余り重要ではない。なぜなら、今回の件は「武力による威嚇」という言葉の通常の使用の、まさに核心的な事例であるからである。

したがって、今回の北朝鮮の行為は、「武力の行使」であるか否かにかかわらず、「武力による威嚇」であるということになり、結局のところ、国連憲章2条4項の武力行使禁止原則に違反する重大な国際法違反であると評価できる。

日本には何ができるか?

それでは、北朝鮮が国際法違反の行為を行った帰結は何か? それは、日本に対して、国際法上、報復及び復仇の権利が与えられるということである。

横田喜三郎『国際法』250~251頁によれば、報復(retortion)とは、「他の国の不当な行為に対して、その中止を求めるために、同様に不当な行為を行なうこと」であり、復仇(reprisal)とは、「違法な行為に対して、その中止や救済を求めるために、これと対等な行為を行なうこと」である。

つまり、今回の場合、報復というのは、日本も北朝鮮近海に向けてミサイルを打ち返すことである。もっとも、報復関税などであれば、国連法上もとくに問題はないのであるが、武力行使を伴う報復となると、日本側も国連2条3項ないし4項違反となってしまうので、これを行うことはできない。とくに、国連安保理が何らかのアクションを起こすことが期待される現在の情勢ではそうである。

* ちなみに、藤田『国連法』280頁には、次のような記述がある:

51条を2条4項と結び付けて読めば、次のようになる。すなわち、他国による「武力攻撃」の敷居に達しない違法な武力行使を受けた国は、その違反行為を受忍する必要はないが、武力の行使又は武力による威嚇以外の手段によってのみ対応しうる。これは、一方的武力行使をできるかぎり排除しようとする憲章の意図するところである。

それでは、復仇としては何ができるかというと、横田『国際法』252~253頁は、次のように論じている:

復仇として行なわれる行為は、復仇の要件をみたすかぎり〔つまり、相手国と自国の行為の重大性が均衡している限り〕、どのような行為でもよい。しかし、いままで普通に行なわれたのは、第一に、条約の停止である。これは相手の国との条約の実施を停止することで、主として相手の国が条約に違反した場合に行なわれる。第二に、国民や貨物の抑留である。これは相手の国の国民を抑留したり、相手の国やその国民の貨物を差抑えたりすることである。自分の港にある相手の国の船を抑留することもある。この場合に、船を没収することはできない。復仇が終ったときは、返還しなくてはならない。

これを見る限り、日本政府が、国際法によれば抑留可能であった万景峰号について、単なる入港禁止にとどめ、みすみす帰してしまったことは、まったく不可解である。

その他、首相官邸によれば、次のような措置をとるとしているが、そのいくつかは、国際法上の復仇行為ということができる:

対北朝鮮の措置として、次の措置をとることとした。
  • 引き続きあらゆるレベルで北朝鮮側に遺憾の意を伝えて厳重抗議すると同時に、再び行わないことを申し入れ、ミサイルの開発中止、廃棄、輸出停止を求める。また、北朝鮮がミサイル発射モラトリアムを改めて確認し、それに従った行動をとると同時に、六者会合へ早期かつ無条件に復帰することを強く求める。
  • 万景峰92号の入港を禁止した。
  • 北朝鮮当局の職員の入国は原則として認めないことし、その他の北朝鮮からの入国についても、その審査をより厳格に行うこととする。また、北朝鮮船籍の船舶が我が国港湾に入港する場合であっても、その乗員等の上陸については、原則として認めない。
  • 在日の北朝鮮当局の職員による北朝鮮を渡航先とした再入国は原則として認めない。
  • 我が国国家公務員の渡航を原則として見合わせると同時に、我が国からの北朝鮮への渡航自粛を要請する。
  • 我が国と北朝鮮との間の航空チャーター便については、我が国への乗り入れを認めない。
  • 北朝鮮に関するミサイル及び核兵器等の不拡散のための輸出管理に係る措置を引き続き厳格にとっていく。
  • 北朝鮮による不法行為等に関し、厳格な法執行を引き続き実施する。
  • 北朝鮮の対応を含めた今後の動向を見つつ、更なる措置について検討する。
内閣官房長官発表平成18年7月5日「北朝鮮による飛翔体発射を受けての当面の対応について」

もちろん、この種の問題に関しては政治的な判断に委ねられる部分が大きいわけであるが、法的に考える限りは、若干生ぬるい気がしないわけでもない。なぜなら、今回の北朝鮮の行為は、行為の重大性からすればきわめて重大なものであるからである。

しかし、それは、おそらくこれが「当面の対応」であるからであり、国連安全保障理事会での対応が期待されるからであろう。

次回では、この国連安全保障理事会に関する法規範について、解説していこう。

(つづく)

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