〔緊急特集〕北朝鮮のミサイル発射――国際連合法にもとづく解説(2)
前回は、北朝鮮のミサイル発射が国際連合法の根本的な規範である武力禁止原則(国連憲章2条4項)に違反した重大な行為であり、これにより、日本に対して、国際法により復仇(reprisal)の権利が与えられたことを見た。
この場合、復仇の権利とは、北朝鮮が行った違法行為(ミサイル発射)に対して、その中止や救済を求めるために、日本側も、その行為の重大性と均衡を保つ限りで、いかなる行為も行うことができる権利のことである。
そして、日本政府はすでにこの復仇の権利をある程度行使しているが、相手の行った行為の重大性にはまだまだ及ばない程度の行使しかしておらず、それは、おそらく、今後国際連合の安全保障理事会のアクションが期待できるからであると示唆した。
それでは、国際連合の安全保障理事会(国連安保理)のアクションとは何か? それを見ていくのがこの第2回の課題である。
国際連合安全保障理事会
国連憲章39条
国連憲章において、国連安保理の任務は、第6章「紛争の平和的解決」と、第7章「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」に集中的に規定されている。今回の事案は、紛争の平和的解決が奏功しなかった事案であり、したがって、今回問題すべきなのは、第7章である。
第7章において、まず見るべきなのは、冒頭の条文である国連憲章39条である。同条は、次のように規定している:
安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。(The Security Council shall determine the existence of any threat to the peace, breach of the peace, or act of aggression and shall make recommendations, or decide what measures shall be taken in accordance with Articles 41 and 42, to maintain or restore international peace and security.)
見て分かるように、この条文は、「並びに」で前半と後半に分けることができる。日本語では「並びに」と訳されているが(英文では「and」、仏文では「et」)、実際には、「かつ」であると解されており、本来ならばそう訳したほうがよい。
つまり、安保理は、
- 「平和に対する脅威」
- 「平和の破壊」
- 「侵略行為」
のいずれかを決定して初めて、
- (国際平和・安全維持のための)勧告
- 41条の措置(非軍事的強制措置)
- 42条の措置(軍事的強制措置)
のいずれかを行うことができるということである。41条・42条については、あとで詳しく見ていくが、41条の措置というのは、いわゆる経済制裁を中心とした非軍事的強制措置であり、42条の措置というのは、軍事行動を中心とした軍事的強制措置である。
したがって、北朝鮮に対して国際社会が何らかの制裁を加えるためには、今回の行為が、「平和に対する脅威」・「平和の破壊」・「侵略行為」のいずれかに該当すると安保理が決定することが、まずみたさなければならない第一条件となる。
因みに、藤田『国連法』316頁によれば、「平和に対する脅威」・「平和の破壊」・「侵略行為」のなかでは、「平和に対する脅威」が最もよく使用されているという。今回も使用されるとしたらこの「平和に対する脅威」であろう。
それでは、今回の北朝鮮の行為は、「平和に対する脅威」に該当すると決定されるか?
それは、政治的決定というほかなく、安保理の理事国間の交渉次第だといわざるを得ない。客観的には明白に「平和に対する脅威」であるような事案でも、政治的な成り行き次第で、決議せずに流れてしまったり、否決されたりすることがある。したがって、安保理の構成メンバーがきわめて重要になってくる。
安保理の構成メンバーには、常任理事国と非常任理事国の二種類がある。
常任理事国というのは、改選されない安保理のメンバーであり、合衆国・連合王国・フランス・中国・ロシアの5か国である。昨年、日本・ドイツ・ブラジル・インドが常任理事国になることを目指したが、果たされなかった。
非常任理事国は、改選される安保理のメンバーであり、現在、日本・カタール・スロヴァキア・ギリシャ・デンマーク・アルジェンティン・ペルー・コンゴ共和国・ガーナ・タンザニアの10か国がつとめている。
幸いなことに、日本は現在ちょうど理事国をつとめているので、直接理事国間の交渉に参加することができるし、投票にも参加することができる。
動議が可決されるためには、国連憲章27条3項により、「常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票」が必要である。「常任理事国の同意投票を含む」というのが、いわゆる拒否権の制度で、常任理事国が1国でも反対すれば、動議は否決される。逆に、非常任理事国は、7国が反対しないと動議を否決できない。
現在の国際情勢に鑑みれば、日本が、自国の1票を含めて4票の非常任理事国票を確保することができるのはほぼ確実であろう。したがって、決議が成立するかどうかの鍵を握るのは、常任理事国の票である。米英仏については、決定に賛成する可能性は高いであろうが、中露については、北朝鮮に関して独自の関心を有しているため、交渉によるだろう。したがって、動議を成立させるためには、日米が中露との交渉を成功させる必要がある。
交渉が成功し、安保理により「平和に対する脅威」であると認定されれば、国連憲章の建前によれば、北朝鮮に対して、
- (国際平和・安全維持のための)勧告
- 41条の措置(非軍事的強制措置)
- 42条の措置(軍事的強制措置)
の措置がとられることになる。以下では、41条、42条について、見ていこう。
国連憲章41条
国連憲章41条の措置とは、経済制裁などの非軍事的な強制措置のことである。具体的に条文を見てみよう:
第41条 安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。
つまり:
- 経済制裁を加える
- 輸送手段や通信手段を断絶させて制裁を加える
- 外交関係を断絶して制裁を加える(いわば村八分)
の3つの可能性が規定されている。しかし、藤田『国連法』334頁によれば、
〔・・・〕41条の列挙する措置は例示であり、それらに限定されるわけではない。そのため、そこに列挙されない措置がとられることもある。
いかなる措置がとられるかは、政治的決定であり、日本政府の交渉次第といえる。
国連憲章42条
次に、国連憲章42条の措置とは、軍事行動などの、軍事的な強制措置のことである。具体的に条文を見てみよう:
第42条 安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。
つまり、この条文によれば、安保理は次のような行動をとることができる:
- 陸海空軍の軍事行動
- 陸海空軍による示威行為
- 陸海空軍による陸上封鎖・海上封鎖
しかしながら、驚くべきことに、この条文がまともに使用されたことは、これまで一度もないと考えられている。
なぜなら、後に続く43条1項1文が:
すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基き且つ1又は2以上の特別協定に従って、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する。
と規定しているにもかかわらず、戦後すぐに冷戦が勃発してしまったために「特別協定」が締結されずじまいに終り、「安全保障理事会に利用させる」はずの「兵力」が存在しないからである。
横田洋三編『国際機構入門』20~21頁によれば:
〔・・・〕国連が発足するのとほとんど期を同じくして始まった冷戦と米ソ対決のために、この特別協定は1つも結ばれることなく、憲章の定めた通りの国連軍は今日まで1度も実現していない。冷戦期に行われた国連による憲章第7章に基づいた唯一の軍事的強制措置は、1950年代の朝鮮戦争におけるそれであった。これは国連軍という名で呼ばれ、国連旗を使うことを許されてはいたけれども、〔・・・〕憲章が想定した国連軍ではなく、近年多国籍軍と呼ばれるようになった組織の最初の例である。その主力はアメリカ軍で、アメリカ大統領が任命しかつ命令する司令官が指揮をとった。しかもこの活動が安保理によって決定されえたのは、ひとえに当時ソ連が中国代表権問題にからんで安保理を欠席していたという歴史的偶然によるものであり、このような状況は冷戦が終わるまで2度と繰り返されなかった。
それでは、冷戦後はどうだったかというと、まず、湾岸戦争については、藤田『国連法』344頁によれば:
〔・・・〕決議678(1990)の加盟国によるイラクに対する武力行使の許可は、42条に入るともみられる。しかし、この決議が42条に言及していないことから、別の解釈をも引き出しうる。国連事務総長〔当時デ・クエヤル〕は、クウェートの行動は42条に基づくものではないという見解をとったと思われる。また、とくに米国は、湾岸戦争への軍事介入の基礎として51条〔自衛権〕を維持しようとしていたと思われる。
また、911に起因する2001年アフガニスタン戦争についても、911の翌日に出された安保理決議1368は、
国際テロリズムのようなかかる行為を、国際平和及び安全に対する脅威とみなす(regards such acts, like any act of international terrorism, as a threat to international peace and security)
と同時に、
憲章と一致するかたちでの個別的又は集団的自衛の固有の権利を認識し(Recognizing the inherent right of individual or collective self-defence in accordance with the Charter)
つつ、
国連憲章の下での〔安保理〕の責任に一致するかたちで、2001年9月11日のテロ攻撃に応じ、及び、すべての形式のテロリズムと戦うための、すべての必要な手段をとる準備ができていることを表明する(Expresses its readiness to take all necessary steps to respond to the terrorist attacks of 11 September 2001, and to combat all forms of terrorism, in accordance with its responsibilities under the Charter of the United Nations)
という構造となっている。したがって、このときも、タリバン攻撃の根拠となったのは、42条の軍事的強制措置ではなく、51条の自衛権であったといえる。
さらに、イラク戦争においては:
〔安全保障〕理事会がイラクに対して、イラクは、義務違反を続けた場合の結果として深刻な帰結に直面するだろうと、繰り返し警告してきたことを想起する(Recalls [...] that the Council has repeatedly warned Iraq that it will face serious consequences as a result of its continued violations of its obligations)
と安保理決議1441が決定したにとどまり、それ以上の決議は行われなかった。したがって、42条によるものではないと考えられる。このため、攻撃の根拠が不明であり、この点が国際的な非難の対象となった。
結論
結局のところ、北朝鮮に対して軍事的措置をとる際には、42条は余り役に立たない。むしろ、重要なのは、国連安保理が39条に基づいて「平和に対する脅威」であると明確に決定することであり、かつ、関係各国の自衛権を確認することである。
アフガニスタン戦争では、このことがきちんと行われたために、合衆国が国際的な非難を受けることはなかったのに対し、イラク戦争では、この手続が怠られたために、合衆国は国際的な非難に曝されたわけである。
結局のところ、今回の話をまとめると、北朝鮮の行為に対して国際社会が制裁を加えるためには、国連安保理が39条に基づいて「平和に対する脅威」であると認定することが不可欠である。その上で、安保理は、経済制裁などの非軍事的制裁を決定してもよいだろうし、加盟国が軍事行動をとれるように、加盟国の自衛権を確認してもよい。
いずれにせよ、重要なことは、「決議(resolution)」であることであり、法的な意味を持たない単なる議長声明では意味がない。そして、その決議には「平和に対する脅威(threat to peace)」という文言が含まれる必要がある。日本政府は、その方向で交渉すべきである。
次回は、軍事行動をとる際には(事実上42条の代替物となるために)鍵となる概念である「自衛権」について、詳しく見ていくことにしよう。
(つづく)






